明治時代中期に始まる日本の乗物画及び絵本の歴史100余年の中で、質量ともにもっとも優れた画家が木村定男です。木村は終戦復員直後の1945(昭和20)年から亡くなる1999(平成11)年までの54年の間に約2000点といわれる数多くの作品を遺しましたが、そのほとんどが乗物をテーマに描いた作品でした。 特筆すべきは戦後の荒廃した世相の中で、大人子供を問わず当時の日本人に復興への夢と希望を与えたひとつが木村の仕事であり、それが乗物絵本のために描かれた作品群です。 木村の作品は絵本となって子供、特に少年たちの豊かな文化に対する憧れを大いに掻き立てました。本屋の店先には木村が描いた蒸気機関車や特急電車の表紙に飾られた絵本が必ずといってよいほど並べられました。そして子供たちはそれをむさぼるように読み、まだ見たこともない夢の列車に思いを馳せ、自分もいつかはこれに乗るんだという熱い思いをたぎらせたのです。 やがて昭和20年代半ばになると実際の鉄道も復興し、蒸気機関車はもとより、電車、特急電車、電気機関車などが次々に登場するようになります。経済復興のエネルギーにも押され、10社を超える出版社で多くの画家たちが次々に乗物絵本を出版しましたが、木村はいわばその先導中心的な画家でありました。 1956(昭和31)年になると東海道線に特急「つばめ」、特急「こだま」寝台特急「あさかぜ」が運行されます。極め付けが1964(昭和39)年の東京オリンピックと連動して開業された「東海道新幹線」の開通です。まさしく当時の日本人はみながさらなる経済発展に向かっていました。その象徴として新幹線はとらえられていたのです。木村もその新幹線の歴史を作品で表現しています。 木村はその類まれなるデッサン力と構図の巧みさと立体感の表現力によって、単に機関車のメカニックを描いただけではなく、一台の機関車がまるで人格や意思を持っているかのように愛情をこめて表現しました。この木村の優しい感性と情熱が見る人に伝わるからこそいまだに多くのファンを持つのでしょう。
展示構成
1.蒸気機関車 2.電気機関車 3.新幹線 4.鉄道の歴史
5.絵本「おやすみブルートレイン」 6.その他