丸木位里・俊展

1. 展覧会開催の趣旨

丸木位里、丸木俊夫妻の代表作は15連作にも及ぶ「原爆の図」です。この作品群はパブロ・ピカソの代表作「ゲルニカ」と並び、反戦をテーマにした作品として世界的に知られております。その作品群を前にしたとき、人間が本性として持つ残酷性と清浄性とを突きつけられて、誰もが言葉を失います。
そしてその高いメッセージ性とは別に、色彩の極限を追求した墨の美しさや、それぞれ確かな人格を持った人間の「顔」を描いた描写力の卓越さも、私たちの心をとらえて放しません。「原爆の図」は美術作品として、たいへん美しい作品なのです。
また、原爆が投下されて60年以上の時間を経た今日、「核兵器廃絶」の人間としての重要課題も喉もと過ぎれば…といった風潮になりつつある中で、あらためてこの作品を広く多くの人々に鑑賞していただくことが非常に重要な時期に来ています。その意味で、この展覧会をできるだけ多くの場所で開催するということは、極めて意義深いことであると考えます。
しかしながら、もう一方で丸木夫妻=「原爆の図」という図式で固めてしまうことも、二人それぞれの創作活動と作品の審美姓を観るにつけ、非常に惜しいと考えております。
墨は五彩の色を持つといわれますが、「絵は描くものでなく、墨を流すもの」としてその技法の大いなる可能性を、実際の作品に十二分に発揮した丸木位里。
生きとし生けるものたちへの限りない愛情を込めて、天性の描写力と色彩感覚で独自の作品世界を創り上げた丸木俊。
一見相反する二人の創作世界が溶け合ってひとつになったときに、「原爆の図」が生まれたのです。
人間が本質的に持つ「濁」と「清」のせめぎ合いがふたりの作品群の中に、反面鏡のように映し出されます。人間の「濁」と「清」とを、厳しさとやさしさを以って見事に描ききった二人の画家の作品展です。