丸木 俊(まるき とし) 略歴
画家「丸木 俊」といえば、誰もが思い浮かべる作品が夫・位里との共作「原爆の図」でしょう。世界的にはピカソの「ゲルニカ」に匹敵すると非常に高い評価を受ける15作の作品群は、共作とはいえ二人の創作世界はまったく相反するものでした。その相反する個性が妥協することなく己の力を発揮しあい、その結果としてひとつに解け合ったときに「原爆の図」は生まれました。
天性ともいえる愛情あふれる描写力と色彩感覚を持つ俊は、「原爆の図」だけでは満足せず、絵本の世界にも独自の創作世界と反戦・平和を求めていきます。結果、丸木 俊が手がけた絵本原画、挿絵は150点にも及びます。こどものためだけではなく、しかしこどもにもわかりやすい内容が、俊ならではの筆致で見事に描かれた作品群です。
本展では代表作「ひろしまのピカ」を中心に俊の平和絵本の世界を通して、彼女がそこに何をどう表現したかったのかを展観します。
第一部
核の拡散が今なお続く現代にこそ多くの人に観ていただきたい広島での被爆をテーマにした作品。戦争の無惨さ、平和の尊さを訴えた名作2点です。
「ひろしまのピカ」
(絵本にっぽん大賞、全米図書館協会賞、ボストングローブホーンブック賞、ジェーン・アダムズ賞)
丸木 俊:文・絵
この絵本は「ピカは、ひとがおとさにゃ、おちてこん」で終ります。核拡散が未だに続く人間のおろかな業。人間が落とした原爆の下に繰り広げられる惨状を淡々とわかりやすく、そして強い反戦と平和への願いをこめて描きます。世界14ヶ国語圏で翻訳され、20カ国以上で出版される反戦絵本の名作です。
「とうろうながし」
丸木 俊:絵 松谷みよこ:文
丸木 俊が「戦後40年のときを経てようやく描くことのできた」という慰霊の作品。「20世紀の人間が21世紀の人間に伝えなくてはならない」という静かで熱い思いを込めた作品です。
第二部
日本国内唯一の地上戦が繰り広げられた沖縄。ここでその当時何が起こったかを、本作を通してご覧いただきます。
夏休みの展示企画としては第一部同様、極めて時節に合った展示作品であると考えます。
「おきなわ 島のこえ」(講談社出版文化絵本賞)
丸木 俊・丸木位里:文・絵
沖縄戦で沖縄の人の3人に1人が大切な命を失いました。しかしながらこの中にはアメリカ軍に殺されたのではなく、日本軍にあるいは日本軍の命令によって仲間同士によって殺された人たちが幾人もいたのです。
本来は美しい自然と優しい心に恵まれた沖縄、その沖縄が巻き込まれた戦争がどのようなものであったかを描いています。
第三部
その他の作品。ここでは人間と海との関りを、現代につながる海洋問題をも想起させる作品と、日本人本来のやさしい心のありようを描いた民話からの作品を展観致します。
「うみのがくたい」
丸木 俊:絵 大塚勇三:文
地球上に暮らす生物は陸海の区別はありません。それを言葉をも越えた「音楽」というキーワードで人間と海の生き物たちとを結び付けます。
「かさじぞう」
丸木 俊:絵 松谷みよ子:文
児童文学者の松谷みよ子との作品で日本のお伽話を描いた作品。他の多くのお伽話のように善悪の対比ではなく、正しい行いをすれば報われるという優しさあふれる内容。