夏秋草図

所蔵元 東京国立博物館
正式許可(画像)

酒井抱一(1761 -1828)

世界でも非常に高い評価を受ける日本の「淋派」。酒井抱一はその時代からさかのぼること約100年前の俵屋宗達、尾形光琳らが起こした琳派を、江戸時代に再興した芸術家です。抱一がいなかったら「琳派」もこれほどまでに高い評価を得られたかどうかわかりません。その作品世界は伝統の継承にとどまらず、独白の「抱一芸術」を創り上げました。近現代の日本画家にも多大な影響を与えた抱一、その代表傑作がこの「夏秋草図屏風」です。本作の印は「文栓」の朱文印で、1821年、抱一、61歳の作とされております。また他の作品としては、御物として「花鳥十二ヶ月図」(12幅)が宮内庁に収蔵されています。

抱一と光琳 「夏秋草図」と「風神雷神図」

抱一は40歳の頃から一気に尾形光琳の創った琳派に傾倒していきます。1815年(抱一54歳)の光琳百回忌にはそれを記念する盛大な催しを執り行い、供養の意味も込めて抱一が知る限りの光琳の画を描き写して展覧会まで開催しました。さらにはその展覧会の図録として「光琳百図」をも出版して琳派の再興に力を尽くしたのです。抱一は光琳の研究に没頭するうち光琳の代表作のひとつである「風神雷神図屏風」(重要文化財・東京国立博物館所蔵)に出会い、その裏に作品を描く機会に恵まれました。それが代表作品である本「夏秋草図」(重要文化財・同館所蔵)なのです。現在では別々に表装され、所蔵されています。「風神雷神図」の「雷神」に対して「夏の驟雨」を、そして「風神」に対して「秋の野分けの風」を描きました。また、光琳の「金箔」に対して抱一は「銀箔」を用い、詫び・寂びまでをも表現したのです。

本作の軸装は50年に及ぶ実績をもつ熟練の日本人表具師による手表装で、吟味厳選された正絹の生地と銘木の軸先を用いて丹念に仕上げました。