プチファーブル 熊田千佳慕展

フランスの美術館から「日本のプチファーブル」と称された熊田千佳慕の作品は、筆の穂先数本のみを使って昆虫や動物の細かい毛や植物の葉脈一本一本に至るまで、まるで実物がそこにいるかのように超細密に描かれており、観る者を捉えて放しません。
その宝石のような作品は単なる図鑑の挿絵ではなく、昆虫、花、鳥、動物などの生命の美しさに溢れ、その生命に注がれる画家熊田千佳慕の愛情までもが表現されています。

1911(明治44)年に横浜で生まれた熊田は、戦前はデザイナーとして活躍し、戦後は一転してこどものために「みつばちマーヤ」「ふしぎの国のアリス」「オズの魔法つかい」「ピノキオ」「ライオンのめがね」などの絵本を数多く制作しました。
そして昆虫学者のジャン・アンリ・ファーブルに傾倒した熊田は徹底した観察によって非常にリアルに描く技法を駆使して虫などを描くようになります。その表現方法が高く評価され、絵本だけではなく花、昆虫、動物などを描いた作品やファンタジーの作品を生み出しました。
そして60歳代になってライフワークとなった「ファーブル昆虫記の虫たち」シリーズの制作に取り組み、亡くなるまでの間に70点以上ものシリーズ作品を完成させることとなりました。その作品世界では、時として弱肉強食の厳しい野性の姿も描かれていますが、それらに込められた生命の輝きは実に美しくまた尊厳に満ちています。小さな生き物たちの生命の輝きを、愛情をもって描いたのが熊田千佳慕その人です。この作品はボローニャ国際絵本原画展で2度入選しています。
生前最後となった白寿展では全国8会場を巡り、どの会場でもたいへん多くの入館者を集めました。本展ではこの「ファーブル昆虫記の虫たち」シリーズを始め、熊田千佳慕の代表作を数多く集めて展観致します。

作品構成

1. ファーブル昆虫記の虫たち

ライフワークの「ファーブル昆虫記の虫たち」は、出版物のために描いたのではなく、敬愛するファーブルの世界を自らの筆によって再現する作品群です。ファーブルを描きたいという情熱が熊田を掻き立てたのです。
熊田の代表作ともいえる「ファーブル昆虫記の虫たち」シリーズ70余点とその他に描いた「日本の虫たち」シリーズを展観いたします。

2. 美しい植物たち

自然界の美しい色彩は花たちによって最も光を放ちます。その季節ごとの美しい色彩は熊田を魅了して放さず、180点を超える作品に昇華しました。
単なるボタニカルアートではなく、植物のみずみずしい生命さえも捉えた熊田の作品を展観いたします。

3. ファンタジー ワールド

子供の頃体が弱く外で活発に遊ぶことの少なかった熊田は、家の庭で花や虫と遊ぶことが多かったそうです。その幼児体験の中から熊田の想像力は自然に旺盛になり、「妖精 プック」を誕生させることになります。

4. 懸命に生きる動物たち

子供の頃、熊田は犬や猫や小鳥など様々な動物を飼っていました。
その作品は犬、猫ばかりでなくライオン、白熊、パンダから鳥や魚にまで及びます。彼らに向けられる愛情深いまなざしが感じられる作品群です。

5. 絵 本

熊田の大のお気に入りで幾度と無く挿絵を手がけたのが「みつばちマーヤ」です。みつばちの姿を正確に描いたばかりでなく、小さなこどもたちに絵本のおもしろさ、楽しさを存分に伝えました。本展では「みつばちマーヤ」のほかに「ふしぎの国のアリス」「ピノキオ」「オズの魔法つかい」などの原画作品を展観します。